住宅の設計は、掛け算や足し算をすることなく、 新しい空間を作り出すために割り算や引き算を行う。 ♯109
2014年に会社の先輩に勧められて読んだ本。
もう、6年前になるのか。
あの頃読んだ感覚と違う感覚でこの本に対峙できている自分がいる。
小説はアトリエ系建築士事務所に勤務する主人公の話。
どことなく事務所の所長は吉村順三を思わせる。
舞台が軽井沢ということもあるのかもしれない。
建築空間を上手く言語化している所も勉強になる一冊。
そして、分厚い小説だけれども、音読してその表現を体得したい!そう思える一冊。
住宅の設計は、掛け算や足し算をすることなく、
新しい空間を作り出すために割り算や引き算を行う。
割り算の余りのようなものが残らないと、建築はつまらない。
小説の文中の抜粋。
表現の仕方が建築的で面白い文章が多い。
建て付けの悪い雨戸のようだった自分のふるまいも、少しずつがたつきがおさまって、桟の上を滑り出したように感じていた。
僕は患者の腹部を触診する医師のような思案顔で、礼拝堂の扉まわりのディテールをスケッチし始めた。
玄関のドアは外と内の境界線だからね、金属をにぎるくらいの緊張感があって良い。
人の顔は真上から照らされると、あんまり魅力的に見えないんだ。ゆらゆらした光で横から照らすくらいの方が、懐の深い、いい顔になる。
防災をあまりに徹底した家と言うのは、これは要塞であって、住宅ではない。居心地が良いかどうか、はなはだ怪しい。要塞に住むなんて、常に厄介を考えながら暮らすようなものだからね。